エクスプレス・パラオ語 文法篇 第17課 文章の形成の手続き:主語のシフトと所有者の前置
文章の形成の手続き:主語のシフトと所有者の前置
パラオ語において、感情、能力、義務などを表す「義務的に所有される名詞」は、独特の語順変化(シフトと前置)を伴います。
1. 四つの特別な所有された名詞
以下の4つの単語は、常に所有接尾辞を伴い、主語の感情や状態を表す中心的な役割を果たします。
| 人称 | 好き (soak) | 嫌い (chȩtil) | 能力 (sȩbȩchel) | 義務 (kirel) |
|---|---|---|---|---|
| 1人称単数 | soak | chȩtik | sȩbȩchek | kirek |
| 2人称単数 | soam | chȩtim | sȩbȩchem | kirem |
| 3人称単数 | soal | chȩtil | sȩbȩchel | kirel |
| 1人称複数(包括) | soad | chȩtid | sȩbȩched | kired |
| 1人称複数(除外) | somam | chȩtimam | sȩbȩcham | kiram |
| 2人称複数 | somiu | chȩtimiu | sȩbȩchiu | kiriu |
| 3人称複数 | sorir | chȩtirir | sȩbȩchir | kirir |
2. 主語のシフト (Subject Shifting)
パラオ語では、本来の主語が文末に移動(シフト)し、元の場所に代名詞の痕跡(ng または tȩ)が残る形式が一般的です。
基本的なシフトの例
- 元の構造:
A biang (S) a soak.(ビールは私の好きなものだ) - シフト後:
Ng soak a biang.(私はビールが好きです)- ※
ngはシフトしたbiang(3人称単数) の痕跡。
- ※
任意と義務の区別
- 等位文(名詞+名詞):
soakなどの表現ではシフトがほぼ義務的です。 - 動詞文:
Ng mla me a Droteo.(ドロテオが来ました) のように、期待していた状況を表す際に任意で行われます。
3. 所有者の前置 (Possessor Fronting)
主語が「AのB(所有構造)」である場合、主語のシフトの後に、所有者(A)だけを文頭に戻すことができます。
構文プロセスの例:ドロテオの手が痛い
- 元の文章:
A chimal a Droteo a mȩringȩl. - 主語のシフト:
Ng mȩringȩl a chimal a Droteo. - 所有者の前置:
A Droteo a mȩringȩl a chimal.
応用例
A Toki a milsesȩb a blil.(トキの家が燃えた → トキは家が燃えた)A mlik a tȩlȩmall a ochil.(私の車のハンドルが壊れた)
4. RENG(心・魂)を含む表現
抽象名詞 reng と状態動詞を組み合わせることで、多様な感情を表現します。この場合、主語のシフトは義務的です。
| 表現 | 意味(感情) | 直訳的な意味 |
|---|---|---|
| ngmasȩch a rȩngul | 怒る | 心が上がる |
| mȩched a rȩngul | のどが渇く | 心が浅い |
| suebȩk a rȩngul | 心配する | 心が飛ぶ |
| klou a rȩngul | 忍耐強い | 心が大きい |
| mȩkngit a rȩngul | 悲しい | 心が悪い |
5. 目的節・動作名詞との結合
soak や sȩbȩchel の後に、具体的な名詞ではなく「動作(従属節や動作名詞)」を置く場合の区別です。
従属節 (特定の状況)
Ng soak **ȩl mȩlim** a biang.((今)ビールが飲みたいです)Ng sȩbȩchek **ȩl eko** ȩr a blim.(明日あなたの家に行けます)
動作名詞 o- (一般的な習慣・概念)
Ng soak **a omȩlim** ȩl biang.((習慣的に)ビールを飲むのが好きです)Ng sȩbȩchem **a omȩlim** ȩl rrom?(あなたはお酒が強いですか?)
6. 時制の展開
これらの等位文(名詞句による文)の時制は、助動詞によって表されます。
- 過去 (mle):
Ng mle soak ȩl mo ȩr a chei.(釣りに行きたかったです) - 未来・変化 (mo):
Ng mo sȩbȩchem ȩl me?(来ることができますか?) - 状態の変化 (mlo / mla mo):
A Toki a mla mo chȩtil a ochur.(トキは数学が嫌いになりました)